札幌高等裁判所 昭和30年(ム)1号 決定 1956年4月05日
再審申立人 中川新
主文
本件再審申立を棄却する。
本件申立費用は再審申立人の負損とする。
理由
本件再審申立の趣旨ならびに理由は、別紙記載のとおりである。
本件記録によると、次の事実が認められる。
(一) 札幌地方裁判所昭和二九年(ケ)第二一号不動産競売事件の昭和二九年七月一九日午前十時の競落期日において、同裁判所裁判官秋吉稔弘が、競売不動産三筆のうち、建物二筆を再審申立人に、宅地一筆を林六太郎にそれぞれ競落を許可する旨の決定を言渡したこと。
(二) 右事件の債務者らからの右競落許可決定に対する即時抗告の申立に基ずき、札幌高等裁判所は、昭和二九年一〇月二九日同許可決定は民事訴訟法第六七五条に違背する違法があるとしてこれを取消し、事件を札幌地方裁判所に差戻すとの決定をなし、その決定はその頃確定したこと、
(三) 差戻後指定された昭和三〇年二月四日午前十時の競落期日において、前記裁判官が競売不動産三筆のうち、建物一筆を再審申立人に競落を許可する旨の決定を言渡すと同時に、他の二筆については競落不許可の決定を言渡したこと、
(四) 再審申立人が、右(三)の競落許可決定に対し昭和三〇年二月一一日札幌高等裁判所に対し即時抗告の申立をしたところ(同裁判所昭和三〇年(ラ)第三号事件)同裁判所は同年五月二六日抗告を棄却する旨の決定をなし、その決定正本は、翌二七日再審申立人に送達されたこと。
しかして、民事訴訟法第三五条第六号にいわゆる前審とは、直接または間接の下級審をいうのであつて、差戻後の手続に対し、その以前の同級審の手続は前審でない。されば、前認定の如く秋吉裁判官が、差戻後更に同一事件につき競落許可決定をしたからといつて同法条に違背するものということができない。もつとも最初の抗告でも高等裁判所が抗告審の場合には同法第四〇七条第三項の準用を認むべきであるとの見解もないではない。しかし同法第四一四条の文理上からにわかにこれに賛成しがたいし、他に法律により前記裁判官が差戻後の競落許可決定に関与できない。事由を見出すことができないから所論は到底採用できない。それ故本件再審申立は、その事由がないものとしてこれを棄却し、再審申立費用は再審申立人の負担とすべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)